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10/22 谷川岳中央カンテ

一生分の怖い思いをした。

落石がゴロゴロしているなか、崖を登る。簡単だから、いつもなら全然平気なはずなのに。

 

降りたくても降りられないこと、落石が怖いこと、おじいちゃんの厳しいこと、懸垂も、上からのビレイも慣れなくて、セルフで身動きが取れないこと、お水が飲めないこと、色んな要素が怖かった。

 

落石が空気を切る音、ぶつかって爆ぜる火薬みたいな匂い、煙った空気、カラカラと石が崩れて転がる音が止まない岩場を、わたしは一生好きになれないと思った。

 

おじいちゃんは、アプローチの一枚岩を、死んだ仲間やケガした人を何人も担いで下りたと言った。このアプローチで落ちた仲間もいると言った。雪山や岩場で仲間を亡くした話をたくさんしてくれた。下りはわたしをザイルで結んでくれた。

 

仲間を亡くしたり、ケガしたりしているのを見たり、自分が雪崩に巻き込まれた経験をしても、どうしてわたしみたいな素人を連れてこようと思うのかを聞いたら、おじいちゃんは、『他人だから』と言った。娘や息子や、身内ならこんなところに連れてこない。奥さんでも連れてこない。亡くなったひとやケガした人は、どうしてだと思いますかって聞いたら、技術が足りなかったからだと言った。

 

他人だから、連れてきて、崖を登らせて、ほら楽しいでしょって、そんなの詐欺だと思った。あの人は、悪気なくても、いつか大切な人が殺されてしまう。自分で選んだんだからおじいちゃんは悪くないって思えない。わたしは何も知らなかったし、ものすごく怖かった。

 

だから、もうおじいちゃんと山に行きたくないし、大切な人には、おじいちゃんと山に行って欲しくない。勘違いや見立てを、植え付けて、けしかけて、それで死んだって、おじいちゃんは、今まで亡くしたたくさんの仲間の一人と同じようにしか思わない。また新しい誰かを誘って、ロープで繋いで無邪気に崖を登らせるんだと思った。それをそのまま伝えたし、おじいちゃんは酷いことをしてると言った。

 

ライミングのお守りにしていたブレスレットの2本目も、ちょうど切れてなくなっていた。前の一本は前の彼氏と別れてすぐのときジムで切れてなくなった。なんかもういいやと思った。もう岩もいいし、山もしばらくいいや。落石が怖くて、辛くて痛くて、何にも楽しくなくて、もう無理だから下りたいと2ピッチ目でお願いしたら、これを楽しめないでどうするの、と怒られたまま3ピッチ目を登って、テラスに上がったところで、下りようか、と言ってくれた。もう二度とこの人達に会えなくていい、彼氏と会えなくていいから、ここから下りたいと思った。